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※本稿は、ビジネス+ITからの転載記事です。(掲載日時:2022年11月28日) photo-top

高齢ユーザーも高評価、
日本生命の「eKYC」は何がスゴイのか?

日本生命保険相互会社

金融法人契約部 金融法人事務開発G 課長代理 池田 大介様
金融法人契約部 金融法人事務開発G 副主任 松本 愛様
(所属は、取材日時2022年9月当時のものになります)

日本生命保険相互会社様は、国内最大手の生命保険会社として、幅広い商品ラインナップを揃えております。その中で銀行などの金融機関が代理店となって販売しているのが「金融機関窓口販売商品」で、お客さまの平均年齢が高いことが特徴です。高齢者にもスマートフォンが一般化している現状を鑑み、スマートフォンで手続きできる新たな仕組みとして、『eKYC本人確認サービス』をご導入いただきました。

さまざまな保険商品を販売している日本生命。その中で銀行などの金融機関が代理店となって販売しているのが「金融機関窓口販売商品」、通称「窓販(まどはん)」と呼ばれる商品だ。顧客の平均年齢は76歳。これまで契約後の住所変更などの手続きは、コールセンターでの対応だけだった。しかし、営業時間外に手続きができず、また、電話で完結しない手続きも多く、顧客満足度を高めるためにも手続きのオンライン化が急がれていた。同社はいかにして、高齢ユーザーも満足するオンライン手続きの仕組みを構築したのか。

顧客は平均76歳、必要だった「コールセンター以外」の顧客接点

 日本生命は生命保険商品の企画、販売、契約管理およびサービスを提供する国内最大級の生命保険会社だ。さまざまな商品を扱う同社で、銀行などの金融機関が代理店となって販売しているのが「金融機関窓口販売商品」である。各金融機関の窓口で販売されるため「窓口販売」や「窓販(まどはん)」と呼ばれる。

 同社の金融法人契約部は、この窓販商品の保険金の支払い、住所変更などの契約管理を担当する部署である。その業務の特徴について、同部金融法人事務開発G 課長代理 池田大介氏は次のように説明する。

「窓販商品は、金融機関が個人のお客さまの退職金などの運用をターゲットとして販売されるケースが多い商品です。このため、お客さまの平均年齢が76歳と高く、ご高齢のお客さまにいかに分かりやすくアフターサービスを提供するかが最も重要なテーマとなっています」(池田氏)

 そのサービスを提供するうえで最も重要な役割を果たしているのがコールセンターだ。ほとんどの契約者はコールセンターに電話し、そこから各種手続きがスタートする。

 ただし、コールセンターの営業時間は平日9時~17時であり、営業時間外は受付できない。また、電話で完結できない手続きも多く、早急な改善が求められていた。

 そこで同社は、24時間365日受付可能なコールセンター以外の顧客接点を模索し始めた。顧客調査で「契約後にオンラインで手続きしたい」という回答が4割あったこと、さらに高齢者にもスマートフォンが一般化している現状を鑑み、スマートフォンで手続きできる新たな仕組みを検討することになったのである。

新しい仕組みに求めた3条件、すべてをクリアした選択肢とは?

 保険契約後は、住所や電話番号の変更、名義変更、保険金支払いなど、さまざまな手続きが必要になる。そのすべてを一気にスマートフォン対応とするのは現実的ではない。そこで同社は、段階的な対応として、まずは住所・電話番号の変更手続きにスマートフォン対応の対象を絞った。

 その理由について、池田氏は「住所・電話番号の変更は問い合わせ件数が多く、手続内容が比較的単純であることから、新たな挑戦の第一歩として最適な領域だと判断しました」と説明する。

 さらに、新しい仕組みを構築するうえで、次の3つをクリアすべき条件とした。

1. パスワードを必要としない
2. 高齢者を意識した使いやすいユーザーインターフェース(UI)
3. 迅速・柔軟な開発

特に重要だったのが「パスワードを必要としない」ことだったと、池田氏は次のように説明する。

「ご高齢のお客さまが多く、IDやパスワードを覚えていないケースが非常に多いのです。実際に手続きの途中でパスワード入力を求めると、すぐに離脱されるケースが少なくありません。また、そもそも住所や電話番号は頻繁に変更するものではありませんので、利便性を考えるとパスワードがなくても本人確認できる仕組みが不可欠だったのです」(池田氏)

 さらにUIと迅速・柔軟な開発を重視した理由について、池田氏は次のように続ける。

「文字サイズやコントラストなど、ご高齢のお客さまにも分かりやすいUIが不可欠だと考えていました。ただし、我々のノウハウ・知見だけでは限界があることも分かっていました。また、お客さまのニーズ変化や技術革新のスピードが速い今の時代においては、仕様変更への柔軟な対応や開発スピードが プロジェクトにおける重要な要素だと考えていました」(池田氏)

こうして同社は、オンライン上で本人確認を完結するeKYC(electronic Know Your Customer)技術が最適だと考え、複数のサービスの比較・検討を開始した。最終的に同社は、エムティーアイの「eKYC本人確認サービス」の導入を決断することになった。その理由を、池田氏は次のように説明する。

「エムティーアイさんには当社の個人保険のアプリを開発していただいた実績があり、そのデザイン力を高く評価していました。さらに、パスワードレスを実現できて、他業務への展開も見据えた際の開発力も十分納得できるものであったことから、同社の『eKYC本人確認サービス』を選択しました」(池田氏)

本人確認を含め、「使いやすさ」を最優先に開発

 エムティーアイの「eKYC本人確認サービス」は、ポラリファイが開発した生体認証技術を使った本人確認サービスである。スマートフォンで各種情報を入力したあと、免許証などの顔写真のある書類を撮影し、続けて自身の顔をカメラで撮影する。書類の画像と撮影した顔画像が一致すれば本人であると認証されるため、パスワードを必要としない。

 「使いやすさ」には徹底的にこだわった。顧客にとって本当に使いやすいかを検証するため、実際のeKYC手続きが最後まで行えるプロトタイプを開発し、ユーザビリティテストで操作性などの検証を実施した。

「住所・電話番号の変更の手続きは、『情報入力』と『本人確認』の2つに分けられます。ユーザビリティテストを実施したところ、情報入力の部分については、『使いやすさ』を狙った文字サイズやコントラストが奏功して高評価でしたが、本人確認の操作では『よく分からない』『直感的に操作できない』といった指摘をいただきました。そこで、本人確認書類を撮影するときの操作説明文言を修正したり、撮影画面内にうっすらと表面/裏面が分かるイラストを入れるなど、ご高齢のお客さまでも迷うことなく操作できるように工夫しました」(池田氏)

本人確認書類の撮影時に表/裏が分かるようにうっすらとイラストを表示するなど、高齢ユーザーにも使いやすいUIを目指した

 なお、検証期間中には思わぬトラブルも発生した。

「しかし、そのあとの対応が非常に迅速でした。お客さまの大切な保険契約を管理している我々にとって、何かあったとき柔軟かつ機動的に動くことは非常に重要です。トラブル後のエムティーアイ担当者の動きはまさに我々が望むものでしたので、かえって信頼を深める結果となりました」(池田氏)

 プロトタイプによる検証を行ったあと、本格的な開発に着手。約2カ月の開発期間を経て、2022年4月1日から新しいシステムが稼働を開始した。

 なお、eKYCによる本人確認だけであれば、もっと短い期間で開発することも可能だったという。しかし今回は、eKYC前後の処理も含めて、高齢ユーザーも離脱することなく最後まで手続きできるよう、時間をかけて細部まで使いやすさを追求したという。

7割がコールセンター営業時間外に利用、目指すは“顔パス”の世界

 新しいシステムによる成果はすぐに表れた。それが端的に表れているのが利用時間だ。金融法人契約部金融法人事務開発G 副主任松本愛氏は「新しいシステムを使って住所・電話番号の変更手続きを行うお客さまの7割が、非営業日や営業時間外のご利用となっています」と述べる。

 従来は、土日と平日17時以降は手続きできなかっただけに、それ以外の時間帯に手続きできるようになった意義は大きい。今後、順調に利用件数が増加していくことで、コールセンターのオペレーターの負荷も低減されていくことが期待される。顧客からの評価も上々だ。

「システム稼働後、お客さまにヒアリングを実施したところ、8~9割のお客さまからUIを高く評価していただきました。たとえば、ある70歳代のお客さまからは『70歳を越えた自分でも、画面の指示通りに操作したら簡単に手続きできた』と評価いただきましたし、『パスワードを覚えておく必要がないので便利。パスワードより断然こちらの方が良い』と回答されたお客さまもいらっしゃいました」(松本氏)

 もちろん、今回のオンライン化は、同社の取り組みの入り口にすぎない。今後の展開について、池田氏は次のように語る。

「当社の中期経営計画では、『お客さま本位の業務運営』を事業運営の根幹としております。オンライン化の取り組みはこれに沿ったものであり、ニーズの高い手続きを中心に順次オンライン化を進めていきたいと考えています。また将来的には、たとえば2回目の手続きでは顔を撮影するだけで認証される“顔パス”のような仕組みや、情報入力の負荷を下げる仕組みも導入し、さらなる顧客満足度の向上につなげたいと考えています。エムティ―アイさんからは、すでにその構想についてのご提案をいただいております」(池田氏)

 エムティーアイではeKYCによる本人認証の仕組みを拡張し、さまざまな付加価値を付けた顔認証プラットフォームのような構想も検討しているという。これも、ポラリファイが提供する「Polarify認証サービス」を使ったもので、eKYC実施時に取得した顔の特徴点データをもとに、継続的なサービス利用時における認証を可能にする。高齢ユーザーのさらなる顧客満足度向上に向けて、日本生命とエムティーアイのパートナーシップが生み出す成果に注目したい。

※本稿は、ビジネス+ITからの転載記事です。(掲載日時:2022年11月28日)

日本生命 池田様、松本様
お忙しい中、取材にご協力頂き、ありがとうございました。

日本生命保険相互会社
金融機関窓口販売商品
https://nissay-application.ekycs.jp/intro/
取材日時:2022年9月
取材場所:日本生命丸の内ビル(千代田区丸の内1-6-6)