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※本稿は、ビジネス+ITからの転載記事です。(掲載日時:2022年12月2日) photo-top

なぜSMBC信託銀行は「取引件数30%アップ」に成功した?
専用アプリ開発の効果とは

株式会社SMBC信託銀行

デジタライゼーション推進部 小野塚 健様
(所属は、取材日時2022年4月当時のものになります)

株式会社SMBC信託銀行(以下、SMBC信託銀行)様は、2013年に発足した三井住友フィナンシャルグループ傘下の信託銀行。外資系金融機関との統合を経て得られたグローバルな金融商品や洗練されたサービスに、SMBCグループならではの強固な組織力と豊富な情報収集力を融合させることにより、新しい信託銀行として革新的で質の高いサービスを提供しています。お客様との取引において利便性を向上させるために「インターネットバンキング専用アプリ開発」をご支援させていただきました。

「外貨」「不動産」「信託」という3本柱を中心に幅広い金融サービスを提供しているSMBC信託銀行。これまで、同行は個人向けのインターネットバンキングサービスを提供することで、顧客との取引における利便性にも配慮してきたが、ここにはいくつかの課題が残されていた。これらを解決するべく、スマホアプリの開発を進めたという。同行のスマホアプリ開発の狙いや、導入後の効果を紹介する。

SMBC信託銀行は、なぜ多機能・高品質のアプリ開発を低コストで実現できたのか?
(Photo/Getty Images)

「利便性向上」に向け専用アプリ検討をはじめた理由

 もともとSMBC信託銀行では、顧客との取引の利便性を高めるために、Webブラウザ上で取引ができるPC利用者向けの「プレスティアオンライン」と、スマホ利用者向けの「プレスティアモバイル」という2種類のインターネットバンキングを提供していた。

 PC版とスマホ版の2つのチャネルを用意していたが、いずれもWebブラウザ上のサービスであることから、どちらを利用する場合も利用者はアクセスするたびにIDとパスワードを入力しなければならない仕様であった。こうした中、ID/パスワードの入力を負担に感じる顧客から「簡単にログインができるようにしてほしい」という声が上がっていたという。

 また、これまでのプレスティアオンライン/モバイルの仕様では、ログイン後、顧客が保有する複数口座のうち代表口座の残高のみが表示される仕組みとなっており、そのほか外貨取引用預金や投資信託などの残高を確認するには、その都度別の場所にアクセスしなおす必要があった。画面のUIも、頻繁に使用する外貨取引や振り込みの機能などが使用頻度の低い他機能と同列に並んでいるため、同行としては使い勝手を改善したいという思いがあった。

 こうした課題を解決すべく、また他行では既にアプリを導入している中、未だ導入していない点を問題視し、同行はアプリ開発を決断したという。しかし、いくつかのハードルを乗り越える必要があった。SMBC信託銀行 デジタライゼーション推進部 小野塚健氏は、「遵守すべきグループ共通のセキュリティガイドラインがあり、これに対応する必要がありました」と語る。同行はなぜ顧客満足度向上につながるアプリ開発を実現できたのか。

低予算で実現できる理由、情報取得に「スクレイピング方式」を採用

 SMBC信託銀行は、セキュリティの条件をクリアしつつ、アプリ開発ができる方法を検討していた。顧客の利便性を優先するならできるだけ多くの機能を実装したい。しかし、できれば開発予算は押さえたい。こうした点を検討するポイントに置きつつ、開発ベンダー選定を行ったという。あらゆる企業を比較検討する中で、これを叶えてくれるのがエムティーアイだった。

 アプリ開発にあたり検討しなければならないのが開発方式だ。アプリの開発手法は大きく分けて、専用の仕組みを使ってデータを取得する「API方式」、Webの情報の中から使えるデータだけを抜き出す「スクレイピング方式」、WEBブラウザ向けの画面をそのまま表示させる「WEB VIEW方式」の3つ。

SMBC信託銀行
デジタライゼーション推進部
小野塚 健氏

 小野塚氏は「エムティーアイさんからは、既存システムの改修コストが小さいスクレイピング方式に加え、Web View方式とエムティーアイさんのサービスである『モバイルコンバート』を組み合わせる方式をご提案いただきました。WebView方式は既存のWEBブラウザ向け画面をアプリでそのまま表示する方式であるため、コストは抑えられるがデザインのカスタマイズは行えないと考えていました。しかし、WEBブラウザ向け画面を『モバイルコンバート』を組み合わせることでWebView方式でもデザインのカスタマイズを実現できることが分かりました。また、スマホアプリ専用環境を構築せずに既存のIBシステムを参照する仕組みのため二重運用を避けることが出来ること、さらにメンテナンス時や機能改定時の運用負荷増大を最小限に抑えられること、既存環境の改修コストを抑えつつ高いユーザビリティを実現できることなどが分かり、エムティーアイさんへ依頼することにしました」と選定の決め手を説明する。

なぜ、開発前の不安を払拭できたのか

 具体的なアプリ開発の流れは次のとおりだ。まず第一弾として、従来のプレスティアモバイル用のアプリ開発を2021年10月から着手。ここで国内振込、海外送金、外貨預金、定期、投信売買といった機能をアプリで使えるようにしたという。

 続いて第二弾として、2022年2月から前出の機能に加えて、プレスティアオンラインのアプリに指値注文、仕組預金、借入、住所変更などの各種手続が行える機能を追加し、完全にモバイルアプリとして独立した形で利用できるようにした。また生体認証ログインにより、ログインの利便性を向上した点も大きな改善点だった。

分かりやすい表示で残高や取引履歴などをいつでもスムーズに確認できる。また国内振り込みや海外送金の操作も簡単になった。さらに、スマホ端末搭載の生体認証機能を利用して、IDとパスワードの入力なしに安全にログインできる点も大きな改善点だ

 小野塚氏は「アプリを導入する以前は、こういった開発ノウハウが当行になく、誰も有識者がいない状況でした。そのためスクレイピング方式によって『本当にどこまでインターネットバンキングのサービスと接続できるのか』といった答えもなく、漠然とした不安を抱えていました。そのような中で、エムティーアイさんには当行の不安を払拭いただくようなサポートをしていただきました」と話す。

 具体的に、エムティーアイは初期段階において事前の実機検証を進め、インターネットバンキングに接続するところまで踏み込み、フィージビリティを確認したという。そのため、SMBC信託銀行サイドは、上層部も含めて導入の成功を確信でき、その後の決裁・承認の手続きもスムーズに進められたという。

 それだけでなく、エムティーアイは、同行のアプリ開発における細部のこだわりを汲み取り、丁寧にサポートしたという。

 ユーザーが真に求めるアプリを目指していた同行では、事前にデザイン会社にも参画してもらい、50~60代の富裕層に響くような使いやすいUIと動線を検討していた。また、コールセンターや支店スタッフなどの意見も取り入れつつ、デザインをブラッシュアップしていった。最終的にリリース直前には「関係者本番」と称して、総勢130名の行員に評価してもらい、CXの改善に関する意見を可能な限り反映した。

 そのような中で、小野塚氏は「エムティーアイさんは、リリース直前まで仕様の変更に柔軟に対応してくれました。また変更にあたってはBtoCで多くのアプリを運営されているエムティーアイさんの観点で実装方法のご検討をいただけたことが大変心強く感じました」と語る。リリース後のメンテナンスについても、実際にアプリを開発した担当者が引き続きサポートに付いてくれたため、安心感も大きかったという。

アプリの導入で利用者が増え、副次的に取引件数も約30%向上

 今回のアプリ導入により、当初の目論見どおり、同行の業務・サービスのCXは大幅に改善された。顧客からは「ついにアプリが出たね」という喜びの声がたくさん寄せられたという。ツイッター上でも「プレスティア アプリ」などで検索すると、そうした肯定的なつぶやきも多く見られたようだ。

 実際にアプリをリリースした後、取引件数も伸びている。もともと2つのプレスティアのチャネルにアプリが加わり、アプリ側にユーザーが移行したことで、アプリリリースから1年で取引件数が約30%向上したようだ。

 小野塚氏は「このアプリはApp Storeで4.0という高評価を付けていただいています。ただ、もう少し改善してほしい点もあるというご意見もいただいています。たとえば、新規口座へ振り込む場合に使うトークンをなくしたい、あるいはアプリの中でGLOBAL PASS(多通貨Visaデビット一体型キャッシュカード)の管理が出来るようにしてほしいといった声もあり、前向きに検討していく予定です」と説明する。

 今回のアプリ開発と導入に全面的に協力したエムティーアイは、同行のデジタル戦略を推進していく上で、必要不可欠なパートナーといえる。今後も二人三脚で両社が協力していくことになるだろう。

※本稿は、ビジネス+ITからの転載記事です。(掲載日時:2022年12月2日)

SMBC信託銀行 小野塚様
お忙しい中、取材にご協力頂き、ありがとうございました。

株式会社SMBC信託銀行
SMBC信託銀行アプリ:
https://www.smbctb.co.jp/service/app/banking/
取材日時:2022年4月
取材場所:SMBC信託銀行本社(東京都千代田区丸の内一丁目3番2号(三井住友銀行東館内))
撮影:大参久人