日本生命が「開発経験の無い」スマホアプリを実現…?
その秘密とは
日本生命保険相互会社
サービス企画部 専門部長 矢崎 大史様
日本生命保険相互会社様は、国内最大手の生命保険会社として人を中心とした強力な営業網を生かし、保険のコンサルティングはもちろん、加入後のさまざま手続きや保険金の支払いなどに対応してこられました。近年、お客様の行動様式の変化や技術の進歩により、加入後の手続きはネットでしたいという声を反映し、生命保険の「契約貸付」機能のアプリ開発をご支援させていただきました。
これまで日本生命は、人を中心とした強力な営業ネットワークを生かし、保険のコンサルティングや加入後の手続きなどに対応してきた。しかし、顧客の行動様式の変化や技術の進歩などを背景に、新たな接点の構築が求められていた。そこで取り組んだのがスマホアプリの開発だった。現在、スマホアプリは、同社の重要な経営戦略に組み込まれるまでに存在感を増している。プロジェクトを率いたキーパーソンに、プロジェクト誕生の経緯から現在までを聞いた。
日本生命がスマホアプリに注目したワケ
日本生命保険(以下、日本生命)は、明治22年7月、日本で3番目の生命保険会社として発足した。130年以上の歴史を持ち、現在、国内最大手の生命保険会社として事業を展開している。
人を中心とした強力な営業網を持つことで有名な日本生命は、こうした営業網を生かし、保険のコンサルティングはもちろん、加入後のさまざま手続き、たとえば住所変更や保険金の支払いなどに対応してきた。
しかし、それだけでは時代に対応することは難しくなっていたと、日本生命保険 サービス企画部 専門部長の矢崎大史氏は2017年当時を振り返って次のように説明する。
Web展開にあたって意識されていることは何でしょうか
「お客さまの行動様式の変化や技術の進歩により、加入後の手続きはネットでしたいという声が増えていました。また当時、社内でもペーパーレス化や、手続きにかかる事務の効率化も大きなテーマとなっていたこともあり、加入後のさまざまな手続きをWebでも可能とする整備・拡大を進めていました」(矢崎氏)
Web化の拡大を進め、利用者の利便性(UI/UX)を追求していく中、スマホアプリに着目することになる。また、時を同じくして、もう1つの事情が、同社がスマホアプリ開発に踏み出すきっかけとなったという。
「生命保険には、解約払戻金の中から資金を借り入れいただける『契約貸付制度』という仕組みがあります。弊社では、お客さまに発行しているカードでも、本制度を利用いただけていましたが、利用者数の減少などの理由からそのカードを収束させる計画がありました。そこで、カードで同サービスを利用いただいていたお客さまをWebで吸収するためにも、利便性の高い新たなWebインターフェースとしてスマホアプリでも同サービスを提供することにしたのです」(矢崎氏)
こうして「日本生命アプリ」のプロジェクトが発足した。とはいえ、アプリ開発の経験の少ない金融機関が、どのようにしてアプリ開発を達成し、成果につなげることができたのか。
アプリ開発・運用のパートナーにエムティーアイを選んだ理由
現在、「日本生命アプリ」はiOS版とAndroid版が提供され、保険加入後に必要となるさまざまな手続きをカバーした機能を実装している。しかし、当初は、前述のとおり「契約貸付」の機能に限定しスタートした。
「多くの手続きはすでにWebサイト上でも利用いただける環境を整備していました。そのため、同じ機能をアプリで提供することは本来二重投資になります。そこで、まずはカードの収束に伴う利便性低下を補う目的で『契約貸付』の機能だけを実装し、お客さまの反応を確認した上で、次の展開に移ることにしました。このスモールスタートが重要なポイントでした」(矢崎氏)
こうして、当初のアプリ開発は、PoC(概念実証)的な位置付けで、「小さく生んで大きく育てる戦略」を前提にスタートしたのだ。
また、アプリ開発において矢崎氏がこだわったポイントがもう1つあった。それが「生体認証」だ。
「当時、アプリの利便性のカギを握るのは認証だと考えていました。利便性の追求には、IDやパスワードの入力負荷が大きな課題であり、これをクリアするのが、特にスマホアプリと親和性の高い生体認証でした。こうして、生体認証の実装を念頭に情報収集する中、偶然、外部のセミナーでポラリファイ社が開発した新しい生体認証ソリューションを知り、ぜひ我々のアプリに取り入れたいと考えたのです」(矢崎氏)
とはいえ、日本生命はスマホアプリの開発経験のノウハウが少なかったため、矢崎氏は過去にフィーチャーフォン関連のプロジェクトで取引のあったエムティーアイに相談し、開発プロジェクトへの参加を依頼することになる。開発パートナーとしてエムティーアイを選択した理由について、矢崎氏は次のように説明する。
「エムティーアイは、『ルナルナ』に代表されるヒットアプリを企画・開発するなど、スマホアプリの実績・知見ともに豊富である点を高く評価しました。また、生体認証のポラリファイも含めたマルチベンダー体制での開発にも柔軟に対応可能であること、さらに開発後の運用を任せられる点も大きい要因でした」(矢崎氏)
こうして「日本生命アプリ」の開発がスタート。開発は非常に順調かつスピーディだったという。矢崎氏は、「利便性を追求し、UI/UXにこだわる中、迅速にプロトタイプ(モックアップ)が作成され、それを動かしながらインターフェースを作り込んでいきました。そのスピード感は非常にありがたかったですね」と語る。
こうして4~5カ月の開発期間を経て、2018年9月には、無事、「日本生命アプリ」のリリースを迎えることになったのである。
単機能アプリとしてリリース後、さらに機能を拡張
リリース後の「日本生命アプリ」に対する利用者の反応は上々だった。矢崎氏は、「『契約貸付』のみの単機能アプリにもかかわらず、リリース後の2カ月でダウンロード数は1万件になりました。また、ユーザーのほとんどが生体認証を利用し、『ほかの機能も使えるようにしてほしい』という声もいただきました」と話す。
この結果を受けて、「日本生命アプリ」は「大きく育てる」フェーズへと舵を切り、本格的な機能拡張を目指すことになった。
当然、新たな投資が必要になるが、矢崎氏は経営層に次のような点を説明したという。
「お客さまの反応が上々であることを伝えつつ、今後、企業によるWebサービス提供の主流インターフェースはスマホアプリになることが想定されるため、スマホアプリ開発に本腰を入れて取り組むべきという点、さらには既存資産を流用することで開発コストを抑えるととともに、スマホアプリによりトータルのWebユーザーを拡大することで、さらなるバックオフィスの効率化が期待できる点などを強調しました」(矢崎氏)
この、定常運用をしながら拡張開発も行うフェーズで力を発揮したのが、エムティーアイの運用力・サポート力だった。矢崎氏は、「スマホアプリは、開発だけでなくリリース後の運用も負荷が高く知見も必要です。自社でOSのバージョンアップや新しい機種を追いかけ、保守運用することはとてもできません。開発とあわせてその部分もエムティーアイさんにお願いできたことはとても大きかったです」と振り返る。
実際にエムティーアイでは、iOSやAndroid OSがアップデートすると、そのたびにアプリの検証を行う。さらに、市場で販売されている携帯端末の機種をすべて自社で揃えて、動作検証できる環境も整備しているという。
「我々がエムティーアイを選んだ理由は、開発だけでなく、その後の運用もトータルでサポートいただける点でした。開発と運用が切り離されていたら、安心して任せることはできなかったと思います」(矢崎氏)
最新の「日本生命アプリ」。Webでできることはほぼすべてカバーし、スマホアプリならではの機能も増えている
2018年9月に最初のバージョンがリリースされた「日本生命アプリ」は、その後も機能拡張を継続し、現在はWebで可能な手続きは、ほぼすべて実装されている。ダウンロード数も約30万を超え、利用者は増加した。同時に、Webで手続きをする顧客の割合も増加傾向にあるという。
「初リリース後、約2年かけて機能拡張し、多くの手続きはアプリで利用いただけるようになっています。たとえば、入院されたときの給付金などは、病院の領収書をカメラで撮影して送っていただければお支払いできます。やはり、スマホ機能との親和性もあり、アプリには“使いやすさ”という大きなメリットがあります」(矢崎氏)
ただし、契約者全体で見ると、アプリを利用しているのはまだ4%程度だという。今後はその利用者数や、さらには接点の頻度をどう増やしていくか、が重要な取り組みとなる。
その点で注目すべきなのは、2021年3月に発表された同社の中期経営計画に「日本生命アプリの機能拡充」が明記されたことだ。
「新しい中期経営計画では、『人・サービス・デジタルで、お客さまと社会の未来を支え続ける』という目指すべき姿が示され、サービス・デジタルの重要なツールとしてスマホアプリが位置づけられています。我々が小さく始めた取り組みが、会社の戦略の中で重要な役割を持つまでになったと実感しています」(矢崎氏)
矢崎氏のチームでは、この計画に沿って、今後もスマホアプリを重要な顧客接点として育てていく予定だ。
「お客さまのスマホに常に日本生命との接点(『日本生命アプリ』)=安心を持ち歩いていただく、そういった世界観を目指し、今後も高度化を続けていきます」(矢崎氏)
スモールスタートしたスマホアプリによるサービス提供は、いまや同社の経営戦略を支える重要なプロジェクトへと成長しつつある。その重要性が、今後、さらに高まるのは間違いない。それとともに、プロジェクトを開発・運用の両面で支えるエムティーアイの役割と責任も、さらに大きくなるだろう。
※本稿は、ビジネス+ITからの転載記事です。(掲載日時:2021年6月10日)
日本生命保険相互会社 矢崎様
お忙しい中、取材にご協力頂き、ありがとうございました。
日本生命保険相互会社
日本生命アプリ: https://www.nissay.co.jp/keiyaku/app/browser.html
取材日時:2021年4月
取材場所:オンラインにて取材実施
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